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岡山地方裁判所 昭和59年(行ウ)4号 判決

岡山県高梁市高倉町飯部五二九九番地の二

原告

杉本登

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

同市向一三番地

被告

高梁税務署長

岡茂生

右指定代理人

吉川慎一

大本哲

北村勲

近藤英幸

宮本直文

河田俊夫

木村守孝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五七年五月一三日付でした原告の昭和五四年分、昭和五五年分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原因は、大工工事業を営む者であるが、昭和五四年分、昭和五五年分(以下「本件各年分」という。)の所得税につき別表五の申告額欄記載のとおり申告をしたところ、被告は、昭和五七年五月一三日付で同表の更正処分額欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税額欄記載のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分等」という。)を行った。そこで、原告は、本件処分等を不服として被告に対し、同月二七日異議申立をしたが、同年八月一〇日、右申立が棄却されたので、同年九月八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、同年一二月二六日、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は、同月二九日、原告に対して送達された。

2  しかし、原告の本件各年分の所得金額は、いずれも原告の右申告のとおりであり、本件処分等は、原告の所得金額を過大に認定した違法があるので、本件処分等の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  推計課税の必要性

(一) 原告は、型枠工事を主体とする大工工事業を営む者であるが、いわゆる一人大工ではなく、相当数の雇人を使用しており、個人事業者としては規模の大きいものである。被告は、原告の本件各年分の所得税調査に昭和五六年八月頃着手したが、その当時、原告は青色申告による確定申告書の提出の承認を受けていた。

(二) 被告は、原告から提出された昭和五三年分及び本件各年分の所得税確定申告書に添付された決算書の内容等を検討したところ、右各年分の青色申告控除額控除前の所得率(青色申告控除前の所得金額が売上金額に占める割合)に大きな変動がみられたことから、右各年分の所得税調査を行う必要性があると考え、被告の係官(以下単に「係官」という。)に右所得税調査を行わせた。

(三) 係官は、昭和五六年七月三一日、原告及び原告が青色申告決定書の作成を依頼している税理士に対し、同年八月五日に所得税調査に赴く旨を電話で通知し、その了解を得たが、八月五日の当日になつて、原告の長女から電話で右調査の延期を申し入れてきたので、係官は、右調査を変更した。その後、原告の長女から係官に対し、同月二七日に右調査に来るよう連絡してきたので、係官は、これを了承した。そして、係官が同日、右連絡どおりに原告方に赴き、原告らに対して所得税調査に赴いた旨を告げ、帳簿書類の提示を求めたところ、原告らは係官に対し、調査の個別的、具体的な目的、理由を開示しない限り、帳簿書類は提示しないと申し立て、また、調査は違法である等と抽象的な理由を繰り返すのみであつたため、係官は調査することができなかつた。

その後、係官は、同年九月一六日、同月二五日、昭和五七年三月六日にそれぞれ原告方に赴き、原告らに対し、帳簿書類の提示、調査への協力を求めたが、原告らは、右調査手続の違法性や個別具体的な調査理由、目的の開示を主張するのみで、帳簿書類を提示しなかつた。更に、その後も、係官は、事前に原告らと面会日を約束したうえで、同年三月六日、同月一〇日に原告方に赴き、帳簿書類の提示を求めたが、原告らは提示しなかつた。その後、同月一一日に原告の長女から係官に電話があり、同月一七日以後であれば、いつでもよいから会つて話したいと申し入れてきた。しかし、昭和五三年分の所得税については、同月一五日が更正の除斥期間(国税通則法七〇条一項)の末日であり、調査も相当長期間にわたつているので、できるだけ早期に処理したいと係官が説得した結果、原告の長女が、原告と共に同月一三日に出頭すると申し出たので、係官もこれを了承した。しかし、原告らは、右約束に反して、同月一三日に出頭せず、その後も連絡がとれなかつたことから、昭和五三年分の所得税については、更正の期間制限により更正処分ができなくなつた。更に、係官は原告と面接するため努力したが、不在のため面接できず、ようやく同年四月一七日に原告と面会することができたので、それまでの調査経過を説明して調査への協力を求めたところ、原告は、帳簿は長女が記入しているので、具体的なことは分らないと答え、同月二〇日までに長女と話して出頭すると約束したものの、同日が経過しても係官に連絡がなかつた。

(四) このように、原告は、係官が所得税調査のため、再三にわたつて帳簿書類の提示を要請したにもかかわらず、その備付の帳簿書類を提示しなかつたので、所得税法一五〇条一項一号に基づき、同月二二日付で原告の昭和五三年分以降の所得税の青色申告承認を取り消すとともに、同年五月一三日付で本件各年分について本件処分等を行つた。

(五) 所得税の課税標準となる所得金額については、納税者が帳簿書類等によつて収入、支出を明らかにし、調査に対して誠実な協力があつて初めて実額による計算が可能となる。しかるに、前記のとおり、原告が帳簿書類を提示しなかつたことから、被告は原告の所得金額を実額で計算することができなかつた。このため、被告は、やむを得ず原告の所得金額を推計によつて算出したものであり、原告が帳簿書類を提示しないことについて正当な理由はないから、本件処分等の時点において他に実額で所得金額を算出する方法がない以上、推計課税の必要性があつたことは明白である。

2  原告の本件各年分における事業所得金額の算出根拠

(一) 昭和五四年分

(1) 事業所得の金額 六四五万八四一七円

原告の昭和五四年分の事業所得の金額を算出した経過は、別表一の「昭和五四年分」欄記載のとおりであり、右事業所得の金額は、次のとおり、売上金額を基礎として類似同業者の平均所得率を適用して推計の方法により算出したものである。

(2) 売上金額 六八四七万五六三五円

売上金額の内訳は別表二に記載のとおりである。

(3) 類似事業者の平均所得率 一〇・六パーセント

類似同業者の平均所得率は、別表三に記載のとおり、同業者三人の売上金額、算出所得金額により求めたところの「〈3〉算出所得率」欄について、これを算術平均し、小数点四位以下を切り捨てたものである。なお、別表三記載の同業者は、原告と隣接する税務署管内において、その年分を通じて型枠工事業を営む青色申告書を提出する者(訴訟係属中の者、又は不服申立て中の者を除く。)で、事業規模(売上金額、従業員数、設備内容)、事業内容等の抽出基準により抽出された、原告と業種、業態等が類似していると認められる者のすべてである。

(4) 算出所得金額 七二五万八四一七円

前記(2)の金額に、(3)を乗じて算出した金額である。

(5) 事業所得の金額 六四五万八四一七円

杉本浩典(以下「浩典」という。)、杉本照子(以下「照子」という。)は、原告の事実に専ら従事していると認められ、所得税法五七条三項の事業専従者に該当するから、事業専従者控除額合計八〇万円(一人当たり四〇万円)を控除した金額である。

(二) 昭和五五年分

(1) 事業所得の金額 六七九万一〇八三円

原告の昭和五五年分の事業所得の金額を算出した経過は、別表一の「昭和五四年分」欄記載のとおりであり、右事業所得の金額は、次のとおり、売上金額を基礎として類似同業者の平均所得率を適用して推計の方法により算出したものである。

(2) 売上金額 六四三三万一二一六円

売上金額の内訳は、別表六の〈8〉の「合計」欄記載のとおりである。なお、同表のうち、〈6〉の金額については、被告の調査によつてはその個別の内訳(発生日時、相手先、金額等)を確認するに至らなかつたが、原告が提出したメモ等と被告が把握した売上金額に基づいて原告の決算書に計上された売上額を検討した結果、その他の売上先に対する売上金額が確実に推認できるため、この部分の売上につき、原告の決算書に計上された金額はそのまま認定した。

(3) 類似同業者の平均所得率 一一・八パーセント

類似同業者の平均所得率は、別表四に記載のとおり、同業者三人の売上金額、算出所得金額により求めたところの「〈3〉算出所得率」欄について、これを算術平均し、小数点四位以下を切り捨てたものである。なお、別表四記載の同業者は、別表三記載の同業者と同一である。

(4) 算出所得金額 七五九万一〇八三円

前記(2)の金額に、(3)を乗じて算出した金額である。

(5) 事業所得の金額 六七九万一〇八三円

浩典、照子の事業専従者控除額合計八〇万円を控除した金額である。

3  本件処分等の適法性

(一) 原告の本件各年分の事業所得の金額は、前記2のとおりであり、本件処分等に係る事業所得の金額は、別表五の「更正後の総所得金額」欄記載のとおりであるから、いずれも原告の事業所得の金額の範囲内である。

(二) また、本件各年分の所得税額を算出するに当たつては、前記のとおり、青色申告の承認取消処分が行われたのに伴い、所得税法上給与所得金額がないこととなつた浩典の扶養親族であつた杉本秀貴、杉本典子につき、これらを原告の扶養親族と認定したうえで、扶養控除額合計五八万円を右各年分の所得控除額に加算し、それぞれ所得税額を算出した。

(三) さらに、昭和五五年分については、原告は租税特別措置法(昭和五五年法律第九号による改正前のもの)四一条二項に規定する住宅取得控除(税額控除額)二万四〇七六円を申告しているが、右住宅取得控除の対象となる新築家屋は、納税者が所有する家屋で主たる生活の本拠地となるものであることを要するところ、原告の右新築家屋は、原告の主たる生活の本拠地に隣接する場合に建築された、いわゆる別棟の家屋であつて、同条項所定の家屋には該当しないものであるから、同控除額を否認して申告納税額を算出した。

(四) 以上によれば、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、原告が本件各年分の所得税の確定申告を過少に行つていたので、国税通則法六五条一項に基づき、本件各更正処分により納付すべきこととなつた税額にそれぞれ一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定も適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張1(一)(原告の事業内容、青色申告の承認等)の事実は認める。

(二) 同2(一)の事実のうち、原告の昭和五四年分の事業所得の金額が六四五万八四一七円であることは認める。

(三) 同2(二)の事実のうち、(2)(売上金額)の別表六の〈4〉の金額は認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同2(二)(1)(原告の昭和五五年分の事業所得の金額)、(3)(類似同業者の平均所得率)、(4)(算出所得金額)、(5)(事業所得の金額)の各事実は否認する。

2  原告の反論

(一) 原告の事業は、型枠大工であり、その事業形態は、工務店の下請けであつて、取引先は限定されているので、内容の不特定な他の収入などはあり得ず、被告の主張する「その他の収入」は、何らの根拠もない架空の金額である。したがつて、昭和五五年分の売上金額は別表六の〈4〉の「合計」欄記載の五七七六万〇〇八〇円だけである。

(二) 実額主張

原告の昭和五五年分の必要経費は、合計五五四〇万五四〇五円であり、その内訳は以下のとおりである。

(1) 従業員の給料 三六八七万五九〇一円

(2) 減価償却費 一一七万四八六九円

(3) その他の経費 一七三五万四六三五円

なお、処分時において推計課税が行われても、右処分の取消訴訟において、納税者から実額主張を行うことは当然に許される。そして、推計課税と実額課税は、それぞれ独立した別個の課税方法ではなく、両者の差異は、納税者の所得額を認識するための方法の差に過ぎないのであるから、原告側の実額立証において、推計課税を覆すために特別の立証が必要であるとは考えられない。

五  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告の反論(二)(実額主張)の事実は否認する。

推計課税の事案において、納税者が所得の実額を主張し、推計額が異なるとして推計を争う場合には、その主張する納税者が、所得の実額がその主張どおりであるということ及びその主張する実額が真実の所得の額に合致することを合理的な疑いを容れない程度にまで立証を尽くす責任があるというべきである。実際上も、納税者自らが実額計算の検証方法を不可能にさせ、推計課税を余儀なくさせておきながら、その後の取消訴訟において実額主張を行うことは、書類の保存期間、関係者の記憶の喪失等の事情からみて、課税庁にその主張額が真実の所得の額に合致するか否かの検討を事実上不可能にさせるものであるから、このような納税者の主張が安易に是認されると、真実の所得額に応じて税を負担している納税者との間に著しい不均衡を生じさせ、租税公平主義の原則に反することになることは明らかである。

2  被告は、本件において、原告の真実の収入金額を算出するために検討を行つたが、その過程と結果は別表六記載のとおりである。すなわち、原告は、本件申告に係る各月別の収入金額につき、取引先別の内訳を明らかにしていないから、被告にとつて、その内容は不明である。そこで、原告の申告に係る各月別の収入金額を被告が調査した取引先、取引金額、決算状況等に照らして検討すると、原告は収入金額を帳簿に記帳しており、かつ記帳に当たつては、いわゆる現金主義(取引先から現金又は小切手の入金の都度、これに記帳する方法)をとつている事実が推認され、このことは、異議申立の調査、審理の差異に原告の長女が自認していた。そこで、被告は、原告が記帳していると考えられる帳簿の内容を推定し、これをまとめたものが別表六の〈2〉に記載した金額である。

このように、原告が取引先からの現金又は小切手金の入金の都度記帳し、これを合計して各月別の収入金額として申告しているところから、例えば、別表六の一月分については、月本建設株式会社からの短期借入金四〇万円及び中村建設株式会社からの短期借入金五万円をいずれも誤つて収入金額として計上しているものと認められるから、右各金額を被告主張の収入金額から控除している。次に、二月分については、原告の申告金額は六七七万九一〇五円であり、これは被告が調査して把握した入金額と原告が記帳したであろうと推定される取引金額とが一致しており、その内訳は、別表六の二月分の「取引先名」と〈2〉に記載されたとおりである。しかし、二月二八日に原告が入手した四万円は、中村建設株式会社からの短期借入金を誤つて収入金額に計上しているものと認められるから、これを被告主張の収入金額から控除している。他方、二月一六日に決済のあつた月本建設株式会社からの収入金額は、総額三二七万0600円であるが、原告が入手した金員は、短期借入金五七万六七四五円を相殺した残額の二六九万三八五五円であつたことから、原告の申告額には同額が計上されているものと推認し、五七万六七四五円は計上漏れであると認定した。以下、その後の各月も、同様の方法により取引先を調査して確認した金額を基に原告の記帳内容を推認したものである。

3  原告の申告に係る各月別の収入金額は、その記帳の基本をいわゆる現金主義においていることから、収入金額として計算すべきものと、その他の取引として記帳すべきものを混同し、又は現金若しくは小切手によらない収入金を記帳していなかつたであろうことが明らかであるが、そうであつたとしても、原告が各月別の収入金額として計上している金額については、何らかの原因、すなわち現金等の入金の事実に基づくものであることは十分推認できる。

そこで、被告は、右申告額の内容につき、可能な限りの調査をして確認するよう努めたが、その内容を把握することはできなかつた。例えば、別表六の七月分についてみとる、原告の申告金額は四八二万九〇五〇円であるが、被告が確認できた原告の収入金額は三四三万四〇五〇円であり、その端数の状況から考えても、中村建設株式会社ほか三社からの収入金額を原告が記帳し、これを申告したと容易に推認することができる。そうすると、右各金額の差額一三九万五〇〇〇円は、原告が収入金額であると認識して記帳しているのであるから、被告が、その内容が不明であるとしてこれを収入金としない理由はないので、原告が自ら収入金額であるとしているものを「その他の収入金額(不明分)」として収入金に認定したものである。

第三証拠

本件記録中の証書目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件処分等の経過)、被告の主張1(一)(原告の事業内容、青色申告の承認等)の各事実及び原告の昭和五四年分の事業所得の金額が六四五万八四一七円であること、昭和五五年分の売上金額が別表六の〈4〉のとおりであることは、いずれも当業者間に争いがない。

被告の主張1(三)(係官による所得税調査)の事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものと見なす。

二  そこで、原告の昭和五五年分の事業所得の金額について判断する。

1  売上金額

(一)  前記一の事実に、成立に争いのない乙第一、第2号証、承認高地義勝の証言により真正に成立したものと認められる乙第3号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証人木村元彦、同高地義勝、同杉本照子(ただし、後記信用しない部分を除く。)の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、証人杉本照子の証人のうちこの認定に反する部分は信用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 被告が調査した結果によつて判明した原告の昭和五五年分の売上(収入)に関する取引先は、別表六の取引先名欄記載のとおりであり、被告が右各取引先を調査して把握した原告の各月別の収入金額は、別表六の〈4〉記載のとおりであるが、原告が各月別の収入として確定申告しているにもかかわらず、右取引先調査によつても裏付けることのできないものについて、被告は、取引先不明の収入金額として原告の昭和五五年分の収入に加えた(以下、これを「取引先不明分」という。)。

(2) 原告は、昭和五五年一月一七日頃に月本建設株式会社(以下「月本建設」という。)から四〇万円、同月二五日頃に中村建設株式会社(以下「中村建設」という。)から五万円をそれぞれ短期借入金として借り入れたが、原告が税務申告を依頼している税理士が作成した帳簿書類(会計日記帳)には、いずれも原告の収入として記載され、これらを一月分の収入として確定申告した。

(3) 原告は、同年二月四日頃、中村建設から下請工事代金として四〇四万五二五〇円を受け取り、また、月本建設に対する下請工事代金債権三二七万〇六〇〇円については、以前原告が月本建設から借り入れていた五七万六七四五円を差し引いた残額二六九万三八五五円を同月一六日頃に受け取り、さらに、同月二八日頃、中村建設から四万円を短期借入金として借り入れた。しかし、原告側では、中村建設からの右下請工事代金全額四〇四万五二五〇円、月本建設に対する右下請工事代金債権から借入金を差し引いた残額二六九万三八五五円、中村建設からの右借入金四万円(合計六七七万九一〇五円)を二月分の収入として確定申告した。

(4) 原告は、同年三月三日頃、中村建設から下請工事代金として二四七万九三五〇円を受け取り、同月一七日頃、月本建設から下請工事代金として三四五万五〇〇〇円を受け取つたが、原告側では、右中村建設の下請工事代金全額二四七万九三五〇円のみを三月分の収入として確定申告した。

(5) 原告は、同年四月三日頃、中村建設から下請工事代金として、一五二万八四〇〇円を受け取り、また、月本建設に対する下請工事代金債権二〇一万一五〇〇円については、原告が月本建設に対する負債三万四九七〇円を差し引いた残額一九七万六五三〇円を同月一六日頃に受け取り、さらに、同日頃、有限会社山下組(以下「山下組」という。)から下請工事代金として三一二万七〇〇〇円を受け取り、同月一七日頃、有限会社金田組(以下「金田組」という。)から下請工事代金として一〇〇万円を受け取った。しかし、原告側では、中村建設からの右下請工事代金全額一五二万八四〇〇円、月本建設に対する右下請工事代金から負債を差し引いた残額一九七万六五三〇円、山下組の右下請工事代金から七九万一〇〇〇円を差し引いた残額二三三万六〇〇〇円(合計五八四万〇九三〇円)に一二七万二〇〇〇円(取引先不明分)を加算した七一一万二九三〇円を四月分の収入として確定申告した。

(6) 原告は、同年五月一六日頃、月本建設から下請工事代金として五二万円を受け取り、また、山下組から下請工事代金として、同日頃に二一三万九九三〇円、同月一七日頃に二〇万円をそれぞれ受け取り、さらに、同月一七日頃、金田組から下請工事代金として五〇万円をそれぞれ受け取つた。しかし、原告側では、山下組からの右各下請工事代金全額合計二三三万九九三〇円、月本建設に対する右下請工事代金から三一五〇円を差し引いた残額五一万六八五〇円、金田組に対する下請工事代金から一七万円を差し引いた残額三三万円(合計三一八万六七八〇円)に一三三万七〇五〇円(取引先不明分)を加算した四五二万三八三〇円を五月分の収入として確定申告した。

(7) 原告は、中村建設から下請工事代金として、同年六月三日頃に三一四万五七五〇円を受け取り、同月一七日頃に八万円を短期借入金として借り入れ、同月一六日頃、月本建設から下請工事代金として三八万六四二〇円を受け取り、同日頃、金田組から下請工事代金として二万五五〇〇円を受け取り、同月一七日頃、山下組から下請工事代金として一三五万二三七〇円を受け取つた。しかし、原告側では、中村建設からの右下請工事代金全額三一四万五七五〇円、山下組からの右下請工事代金全額一三五万二三七〇円に中村建設からの右短期借入金八万円を加え(合計四五七万八一二〇円)、これらに二〇万二二〇〇円(取引先不明分)を加算した四七八万〇三二〇円を六月分の収入として確定申告した。

(8) 原告は、同年七月三日頃、中村建設から下請工事代金として一五二万三〇五〇円を受け取り、同月一一日頃、常清工業有限会社(以下「常清工業」という。)から下請工事代金として八六万一〇〇〇円を受け取り、同月一六日頃、山下組から下請工事代金として五五万円を受け取り、同日頃、金田組から下請工事代金として五〇万円を受け取つた。しかし、原告側では、右各下請工事代金全額(合計三四三万四〇五〇円)に一三九万五〇〇〇円(取引先不明分)を加算した四八二万九〇五〇円を七月分の収入として確定申告した。

(9) 原告は、金田組から下請工事代金として、同年八月二日頃に四万五〇〇〇円を受け取り、同月一二日頃に一五〇万円を受け取り、同日頃、備北土建有限会社(以下「備北土建」という。)から下請工事代金として三九万円を受け取り、同月一七日頃、山下組から下請工事代金として一二四万九二〇〇円を受け取つた。しかし、原告側では、金田組から同月二日頃に受け取つた右下請工事代金四万五〇〇〇円を除くその他の下請工事代金(合計三一三万九二〇〇円)のみを八月分の収入として確定申告した。

(10) 原告は、同年九月一二日頃、中村建設から下請工事代金として一〇一万八一五〇円を受け取り、同月一六日頃、金田組から下請工事代金として五三万四〇〇〇円を受け取り、同月一七日頃、山下組から下請工事代金として一四〇万一二五〇円を受け取つた。しかし、原告側では、中村建設及び山下組の右各下請工事代金と、金田組の右下請工事代金のうち五二万五五〇〇円のみ(合計二九四万四九〇〇円)を九月分の収入として確定申告した。

(11) 原告は、同年一〇月三日頃、中村建設から下請工事代金として二九三万二〇〇〇円を受け取り、同月一七日頃、山下組から下請工事代金として三七万二〇〇〇円を受け取り、同月一八日頃、月本建設から下請工事代金として二〇万円を受け取つた。しかし、原告側では、中村建設及び月本建設の右各下請工事代金(合計三一三万二〇〇〇円)に七五万円(取引先不明分)を加算した三八八万二〇〇〇円を一〇月分の収入として確定申告した。

(12) 原告は、同年一一月四日頃、中村建設から下請工事代金として二一五万円を受け取り、同月一七日頃、月本建設から下請工事代金として一二三万四〇〇〇円を受け取り、同月二五日頃、金田組から下請工事代金として二三万一〇〇〇円を受け取つた。しかし、原告側では、金田組からの右下請工事代金全額と、月本建設からの右下請工事代金のうち一二二万六五七五円のみ(合計一四五万七五七五円)に一二二万六二〇〇円(取引先不明分)を加算した二六八万三七七五円を一一月分の収入として確定申告した。

(13) 原告は中村建設から下請工事代金として同年一二月三日頃に二四四万四〇〇〇円を受け取り、同月二七日頃に七三七万一五〇〇円を受け取り、月本建設から下請工事代金として同月一六日頃に一万六八六〇円を相殺により差し引いた残額一〇〇万円の代金を受け取り、同月三〇日頃に一四万四〇〇〇円を相殺により差し引いた残額九〇万六〇〇〇円を受け取つた。しかし、原告側では、中村建設からの右各下請工事代金全額、月本建設から同月一六日頃に受け取つた右下請工事代金のうち相殺により差し引いた残額一〇〇万円、同月三〇日頃に受け取つた右下請工事代金のうち相殺により差し引いた残額九〇万六〇〇〇円(合計一一七二万一五〇〇円)に、中村建設から同年一一月四日頃に下請工事代金として受け取つた二一五万円を同年一二月分の収入として加算した合計一三八七万一五〇〇円を一二月分の収入として確定申告した。

(14) 原告には、昭和五五年中に三八万八六八六円の雑収入があるところ、右雑収入は全額につき同年分の収入として確定申告した。

(15) 昭和五五年当時、原告方の帳簿書類には、入金の関係では入金伝票と領収書控があり、出金の関係では領収書があり、これらの書類全部を半年に一回位の割合で税理士の事務所に持参し、税理士は右書類に基づいて会計日記帳を作成し、これによつて税理士が税務申告していた。

(二)  そこで、別表六の〈6〉「その他の収入金額」(不明分)を原告の昭和五五年分の売上金額に算入すべきか否かについて検討する。

前記一、二(一)の各事実によれば、原告は、係官から再三にわたつて帳簿書類の提示を求められたにもかかわらず、提示しなかつたことから、係官は、原告の取引先の反面調査等を行つて原告が昭和五五年分の収入金額として申告したものについて把握に努めた結果、別表六の〈4〉の金額は把握できたものの、別表六の〈6〉の金額については、その取引先を把握することができなかつたものであり、しかも、原告の申告額(別表六の〈1〉)は、原告が入出金に関する伝票、領収書の全部を税理士の事務所に持参し、これに基づいて税理士が作成した会計日記帳によつて税理士が申告していることをも併せ考慮すると、別表六の〈6〉の金額を原告の昭和五五年分の収入(売上)に算入することには合理性があるというべきである。

(三)  次に、原告の昭和五五年分の各月別の売上(収入)について判断する。

(1) 一月分

前認定事実によれば、下請工事代金等の売上金の取得は認められない。

(2) 二月分

前認定事実によれば、同年二月四日頃の中村建設からの下請工事代金四〇四万五二五〇円、同月一六日頃の月本建設からの下請工事代金三二七万〇六〇〇円を合計した七三一万五八五〇円が売上金と認められる。

(3) 三月分

前認定事実によれば、同年三月三日頃の中村建設からの下請工事代金二四七万九三五〇円、同月一七日頃の月本建設からの下請工事代金三四五万五〇〇〇円を合計した五九三万四三五〇円が売上金と認められる。

(4) 四月分

前認定事実によれば、同年三月三日頃の中村建設からの下請工事代金二四七万九三五〇円、同月一七日頃の月本建設からの下請工事代金二〇一万一五〇〇円、同月頃の山下組からの下請工事代金三一二万七〇〇〇円、同月一七日頃の金田組からの下請工事代金一〇〇万円に同月中の取引先不明分一二七万二〇〇〇円を合計した八九三万八九〇〇円が売上と認められる。

(5) 五月分

前認定事実によれば、同年四月一六日頃の月本建設からの下請工事代金五二万円、同日頃の山下組からの下請工事代金二一二万九九三〇円、同月一七日頃の山下組からの下請工事代金二〇万円、同日頃の金田組からの下請工事代金五〇万円に同月中の取引先不明分一三三万七〇五〇円を合計した四六九万六九八〇円が売上と認められる。

(6) 六月分

前認定事実によれば、同年六月三日頃の中村建設からの下請工事代金三一四万五七五〇円、同月一六日頃の月本建設からの下請工事代金三八万六四二〇円、同日頃の金田組からの下請工事代金二万五五〇〇円、同月一七日頃の山下組からの下請工事代金一三五万二三七〇円に同中の取引先不明分二〇万二二〇〇円を合計した五一一万二二四〇円が売上と認められる。

(7) 七月分

前認定事実によれば、同年七月三日頃の中村建設からの下請工事代金一五二万三〇五〇円、同月一一日頃の常清工業からの下請工事代金八六万円一〇〇〇円、同月一六日頃の山下組からの下請工事代金五五万円、同日頃の金田組からの下請工事代金五〇万円に同中の取引先不明分一三九万五〇〇〇円を合計した四八二万九〇五〇円が売上と認められる。

(8) 八月分

前認定事実によれば、同年八月二日頃の金田組からの下請工事代金四万五〇〇〇円、同月一二日頃の金田組からの下請工事代金一五〇万円、同日頃の備北土建からの下請工事代金三九万円、同月一七日日頃の山下組からの下請工事代金一二四万九二〇〇円を合計した三一八万四二〇〇円が売上と認められる。

(9) 九月分

前認定事実によれば、同年九月一二日頃の中村建設からの下請工事代金一〇一万八一五〇円、同月一六日頃の金田組からの下請工事代金三万四〇〇〇円、同月一七日頃の山下組からの下請工事代金一四〇万一二五〇円を合計した二九五万三四〇〇円が売上と認められる。

(10) 一〇月分

前認定事実によれば、同年一〇月三日頃の中村建設からの下請工事代金二九三万二〇〇〇円、同月一七日頃の山下組からの下請工事代金三七万二〇〇〇円、同月一八日頃の月本建設からの下請工事代金二〇万、同月中の取引先不明分七五万円を合計した四二五万四〇〇〇円が売上と認められる。

(11) 一一月分

前認定事実によれば、同年一一月四日頃の中村建設からの下請工事代金二一五万円、同月一七日頃の月本建設からの下請工事代金一二三万四〇〇〇円、同月二五日頃の金田組からの下請工事代金二三万一〇〇〇円、同月中の取引先不明分一二二万六二〇〇円を合計した四八四万一二〇〇円が売上と認められる。

(12) 一二月分

前認定事実によれば、同年一二月三日頃の中村建設からの下請工事代金二四四万四〇〇〇円、同月一六日頃の月本建設からの下請工事代金一〇一万六八六〇円、同月二七日頃の中村建設からの下請工事代金七三七万一五〇〇円、同月三〇日頃の月本建設からの下請工事代金一〇五万円を合計した一一八八万二三六〇円が売上と認められる。

以上によれば、原告の昭和五五年分の売上金額は、前記(1)ないし(12)の金額を合計した六三九四万二五三〇円に同年分の雑収入三八万八六八六円を加算した六四三三万一二一六円であると認められる。

2  必要経費の実額主張

原告の昭和五五年分の売上金額は、前記のとおり、合計六四三三万一二一六円であると認められるが、原告は、同年分の必要経費として、従業員の給料三六八七万五九〇一円、減価償却費一一七万四八六九円、その他の経費一七三万四六三五円の合計五五四〇万五四〇五円を実額主張し、これに浩典、照子の事業専従者控除額合計八〇万円を加算すると、五六二〇万五四〇五円となり、これを右売上金額から差し引くと八一二万五八一一円となる。右差引金額は、本件処分の昭和五五年分における総所得金額五七八万〇二二二円を上回つているから、原告の右実額主張は、その存否の判断に入るまでもなく理由がない。

3  推計課税の必要性

前記一の事実によれば、係官が原告の昭和五五年分の所得調査において、原告側に対して、再三にわたり帳簿書類の提示を求めたが、原告側は正当な理由なくこれに応じなかつたのであるから、推計課税の必要性が認められる。

4  類似同業者の平均所得率

成立に争いのない乙第四ないし乙第八号証、証人高地義勝の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証、証人高地義勝、同木村元彦の各証言及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  被告は、前記のとおり、原告の取引先等を調査して昭和五五年分の売上金額を把握したうえ、必要経費の額については、原告と同業種で、業態、規模が類似する同業者を選定し、その売上金額に対する所得金額(売上金額から、売上原価を含み事業専従者控除額を除く必要経費を差し引いた金額)の割合(以下、これを「平均所得率」という。)を求め、これを原告の売上金額に乗じて原告の事業所得金額を算出した。

(二)  被告は、右類似同業者の用件を次のとおりに設定した。

(1) 当該年(法人の場合には昭和五六年五月までに終了する事業年度をいう。以下同じ。)を通じて大工工事(型枠工事)業を営んでおり、その中途において開業、廃業、休業又は業態の変更をしていない者

(2) 納税申告書を青色申告書によつて提出することについて、当該年を通じて税務署長の承認を得ている者(以下「青色申告者」という。)

(3) 事業に係る売上金額が、昭和五四年、五五年において、いずれも被告が把握している原告の当該年分の売上金額のそれぞれ約二分の一以上であり、かつ二倍以下である者

(4) 事業内容は、ビル建築工事等における型枠の組み立て工事を行つている者

(5) いわゆるコンパネ等の資材は得意先から主として無償支給されている者

(6) 従業員が一〇人から二〇人程度の者

(7) 不服申立て又は訴訟が係属していない者

(三)  被告は、原告の住所地を所轄する高梁税務署管内において右各要件に該当する者を調査したが、発見できなかつた。そこで、被告は、近隣の倉敷、新見、久世の各税務署管内において同様の調査を行つたところ、久世の各税務署管内には該当者はなかつたが、倉敷税務署管内において三件の該当者があつた。

(四)  被告は、推計に用いる類似同業者の営業に関する数値の正確性を確保するため、類似同業者として青色申告者を選定したが、青色申告者は白色申告者と異なり、税法上各種の必要経費が特典として認められており、原告は青色申告の承認を取り消された白色申告者であるから、原告の事業所得の金額を推計する場合、原告の必要経費の範囲と青色申告者である類似同業者の必要経費の範囲とを同一にする必要があつた。そこで、被告は、前記三人の類似同業者(以下、これらを「A」、「B」、「C」という。なお、A、B、Cはいずれも法人である。)の所得金額等に次のとおりの修正を加えた。

(1) 原告の事業には、原告と同居の親族である娘婿の浩典が現場作業員として従事しており(原告が青色申告の承認を取り消されるまでに、同人に対して青色申告事業専従者給与を支給し、これを必要経費に算入していたし、青色申告の昭和五七年四月二〇日付承認取消処分後の昭和五七年分の確定申告においても、支給した給与を同様に必要経費に算入していた。なお、昭和五五年分については、同人に対する給与は専従者給与として青色申告決算書に表示されていないが、これは同年分についてのみ電算システムによる「製造原価の計算」を行つたことから、これを労務費に含めて経理したためである。)また、原告の長女で浩典の妻である照子も原告の事業に従事している。ところで、原告は、前記のとおり、青色申告の承認を取り消された白色申告者であるから、浩典、照子に対して給与の支給の事実があつたとしても、所得税法上、必要経費に算入することはできず、これに代えて一定額(一人当たり四〇万円の事業専従者控除額)を必要経費とみなすこととされている(所得税法五六条、五七条1項、三項)から、これに対応する類似同業者の給料賃金を修正した。

(2) 青色申告者にのみ認められている貸倒引当金繰入損等を除いた。

(3) 類似同業者A、Cの減価償却費については、定率法によつているため、定額法(原告に適用される法定償却方法)によつてこれを計算し直した。

(4) 類似同業者A、Cの代表者に対して支払つた役員報酬は損金となつているので、これを損金から控除した。

(5) 類似同業者A、Cは、代表者個人の所有資産に対して地代又は家賃を支払つているのでこれを控除した。

(6) 類似同業者A、Cが収益に計上している受取利息は、個人の事業所得とは計算上関係がない(利子所得とされる。)から、これを控除した。

(7) また、本件処分等の調査事績によれば、類似同業者Aが雑収入一〇七万八八五二円を計上していたが、その内容は、国税の返還金、従業員日雇健康保険料戻入等から構成されており、これらの雑収入は同業者に共通するものではないから、類似同業者の平均所得率の計算から除外するとともに、右雑収入に含まれている従業員日雇健康保険料戻入額二三万一四五〇円及び従業員日雇失業保険料戻入額一〇万〇三二八円の合計三三万一七七八円に対応する支出が、福利厚生費として損金経理されているので、右合計額三三万一七七八円を福利厚生費から除いた。

(五)  以上のとおりの修正を加えたうえ、別表七のとおり、右類似同業者三人の売上金額、所得金額から各所得率を算出し、右各所得率を算術平均して小数点四位以下を切り捨てた類似同業者の平均所得率は〇・一一八となる。

右認定事実によれば、被告が原告の類似同業者を選定するために選定した前記(1)ないし(7)の各要件は、原告との類似性を認めるうえで相当なものと認められ、また、類似同業者A、B、Cの会計ないし経理上の数値に対して加えられた右各修正も適切なものと認められるから、これらに基づいて算出された右平均所得率は合理的なものであると解される。

5  事業所得の金額

原告の昭和五五年分の売上金額六四三三万一二一六円に前記平均所得率〇・一一八を乗ずると算出所得金額は七五九万一〇八三円となり、これから浩典、照子の各事業専従者控除合計八〇万円を差し引くと、原告の昭和五五年分の事業所得金額は六七九万一〇八三円となる。

三  本件処分等の適法性について判断する。

本件処分等のうち、昭和五四年分については、前記一のとおり原告の昭和五四年分の事業所得の金額が六四五万八四一七円であり、本件処分等における昭和五四年分の事業所得の金額が五三二万九六二六円であることは当事者間に争いがない。さらに、原告の昭和五五年分の事業所得の金額は、前判示のとおり六七九万一〇八三円であり、前記一のとおり本件処分等における昭和五五年分の事業所得の金額が五七八万〇二二二円であることは当事者間に争いがない。そうすると、本件処分等に係る各事業所得の金額は、いずれも各事業所得の金額の範囲内のものであるから、本件処分等は何れも適法であると解すべきである。

四  以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 安原清蔵 裁判官 太田尚成)

別表一

事業所得の金額の算出経過表

〈省略〉

別表二

売上金額の明細表

〈省略〉

別表三

昭和五四年分類似同業者の比率表

〈省略〉

別表四

昭和五五年分類似同業者の比率表

〈省略〉

別表五

〈省略〉

別表六

原告杉本登の昭和五五年分収入金額内訳(被告推認額)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(注)1 「決済等の月日」欄の「.99」とは、被告の調査によってその日付が確認できなかったものである。

2 「〈1〉原告申告額」欄は、原告が被告へ提出した「55年分所得税青色申告決算書(一般用)」(乙第二号証)の2枚目の「○月別売上(収入)金額および仕入金額」の売上(収入)金額」の「売上(収入)金額」欄の記載金額を移記したものである。

3 「〈2〉被告推認による取引先判明申告額内訳」欄は、原告の取引先を調査して確認した各取引先の決済日及び決済方法(小切手、現金又は相殺等の方法)並びに決済金額等により、各月別の調査収入金額を計算し、当該調査額を基に、原告が決算書に記載したであろう取引先別の収入金額を推認したものである。

なお、この欄に「0」と記載したものは、次のとおりである。

(1) この欄に「0」と記載しているもののうち、「〈4〉調査金額(別表二掲名)」欄に実額の記載があるもの

原告が自認した被告調査の収入金額(昭和59年6月13日付け被告準備書面(一)の別表二の昭和55年分欄の中村建設株式会社から備北土建有限会社までの金額(以下、これらを「別表二掲名」又は「別表二掲名金額」という。))が、明らかに原告の申告に係る収入金額に含まれていなかったと認められるものである。

例えば、3月分の原告申告額は2,479,350円であるから、当該金額は3月3日に決済された中村建設株式会社の収入金額2,479,350円で構成されていることは明らかであり、したがって、同月17日に決済のあった月本建設株式会社に係る収入金額3,455,000円が決算書に計上されていないことが判明する。

(2) この欄及び「〈4〉調査金額(別表二掲名)」欄ともに「0」のもの

原告の決算書記載額から上記のとおり取引先別の収入金額を推認したものを控除しても、なお取引先が不明のものであり、「〈6〉その他の収入金額(不明分=〈1〉-〈2〉)」欄の金額に対応するものである。

なお、当該金額がいずれの取引先に係る収入金額により構成されているのかは、原告が記録している「会計日記帳」により明らかとなるものと認められる。

4 「〈4〉調査金額(別表二掲名)」欄の合計金額57,760,080円は、別表二掲名金額に合致する。

5 「〈5〉差引計上漏れ額」欄は、上記3の(1)において説明したとおりであり、いわゆる収入金額が原告の帳簿に記載されていないと認められるものである。

6 「〈6〉その他の収入金額(不明分=〈1〉-〈2〉)」欄は、上記3の(2)において説明したとおりであり、原告が釈明を求めた別表二の「その他の取引先で原告申告額(雑収入を含む)」欄の金額に対応するものである。ただし、被告が再調査した結果、当初主張額の6,552,936円を18,200円上回り、6,571,136円となっている。

7 「〈7〉原告過大計上額(申告額減算)」欄は、原告が前借金等の現金入金額を誤って収入金額に計上したと認められる等、過大に収入金額を決算書に記載していると認められるものを記載した。

8 「〈8〉被告主張の収入金額(〈4〉+〈6〉)」欄が別表二の「合計」欄の64,313,016円に対応するものであるが、上記6で説明したとおり18,200円を加算したために、当初主張額に右金額を加算した64,331,216円が合計金額となっている。

9 末尾に記載した「雑収」欄は、原告が決算書に記載した金額を移記したものであるが、その個別の内訳は原告が記録している「会計日記帳」により明らかとなる。

別表七

類似同業者の平均所得率の算定経過(昭和55年分)

〈省略〉

(注)1 「〈1〉審査請求」欄が審査請求において被告が主張した数額である。また、「主張〈1〉-〈2〉」欄が被告が本訴において主張するものであり、これは審査裁決により採用された数額と同一内容であるものと思料される。

2 「」を付した部分が裁決書謄本(乙第一号証)の9枚目で、また、「」を付した部分が同14ないし15枚目の表においてそれぞれ示された部分である。

3 上記2以外の数字は、被告指定代理人が原処分の調査実績等に基づいて記入したものである。

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